ひめごと。



「匡也さん、もし、私に飽きたら捨てていただいてもかまわないから……」


 それは春菊の、谷嶋に幸せになって欲しいという想いだ。

 悲しいけれど、でも谷嶋が喜ぶならそれでいいと、春菊は思った。


 けっして、通じるはずのない想いが、谷嶋に通じたのだ。

 その事実があれば、この先、苦しいことがあっても生きていけるとそう思った。


「春菊、俺は君以外何もいらない。二度とそのことは口にしないでくれ……愛しているよ春菊」


 彼は閉ざしていた目を開ける。

 穏やかな瞳が春菊を写す。


「っつ……」

 その言葉で、その表情だけで、春菊の胸が熱くなる。

 大きな目にはあたたかい涙があふれ、筋を作って頬に流れる。


「はい……はい……私も、貴方を愛してます……」


 春菊は谷嶋の広い胸に顔を沈め、熱い涙を流した。



ひめごと**終幕*
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