ひめごと。



 しかし、あれは現実ではなく、ただの夢にすぎない。妙に現実味を帯びたように感じたのもただの気のせいだ。

 そう思うのは、隣に彼がいなかったし、それに服や寝具も濡れていなかったからだ。

 それに、病弱で、娼妓であるはずの自分は、唯一得意とされる夜伽さえも何も知らないのだ。そんな役立たずの娼妓に、いったい誰が、『好き』や『愛』を告げてくれるだろう。

 あれは夢で、ただの仮想だ。
 そう言い聞かせるのに、なぜかそれを受け入れることができない自分がいた。



 昨日の昼間、谷嶋の母親に告げられた――『さる立派なお屋敷のお抱え医師になるお声がけ』があるのならば、絶対に縁談の話をすすめるはずだ。彼はそうしていい奥さんを迎え、幸せな家庭を築く。

 娼妓を囲っていると世間に知られれば、匡也の立場は悪くなる一方だ。彼に身請けされたまま、ここに残れば、自分は邪魔になる。


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