空のギター
 ──ハッ、と気付くとベッドの上だった。長い長い夢を見ていたのだ。少しだけ、昔の。雪那は泣いていた。この時期になると、あの頃の出来事が頭をよぎるのだろう。

 少しだけ、不安になる。自分は一生、完全には立ち直れないのではないか……と。



「瞳さん、元気かな……」



 沙雪が亡くなってから路上ライブをしていないので、瞳とはもう二年近く会っていない。彼女とはよく話したが、知っているのは、雪那達が路上ライブをしていた通りの近くに住んでいたということくらいだ。

 ──無性に会いたくなる。あの頃、自分達の歌を聴いてくれていた人達に。



「……久し振りに、行ってみようかな。」



 彼・彼女らはもう、あの近くには住んでないかもしれない。だが雪那は、あの頃立っていた場所に、何だか一人で立ってみたくなったのだ。

 頼星が教えてくれたあの歌を、あの場所で歌ってみたい。そして、あの日からずっと未完だった歌も完成させたい。続きを考えるんだ。そう思ったら、足が自然と動いていた。一緒に帰郷した“相棒”を背負い、家族と姉の友達に出かけてくると伝え、雪那は家を後にした。
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