腹黒王子の取扱説明書
「忙しいのにありがと」

「お礼は兄に言って。逃げちゃ駄目よ。兄が自分から女の子に近づくってほんとレアなんだから」

杏子はウィンクすると、医務室を出て行く。

私は医務室のドアをじっと見つめると、深い溜め息をついた。

レアと言われても全然嬉しくない。

専務と私の間には絶対にロマンスなんて生まれないのに……。

誰が好き好んで水商売の女なんか好きになる?

帰りに専務に首って言われるかな?

ここを首になったら、身体を売ることも考えなくちゃいけないのに……。

私にはもう……普通に恋愛する資格もない。

もし、自分が普通のOLだったら、専務に恋してたかな?

いいや、考えるのはやめよう。

今…必要なのはお金。

私がお金を稼がなければもう普通の生活が出来ないのだ。

父が肺炎かなにかで入院すれば、また医療費がかかる。

親戚とは疎遠だったし、頼れるものなんて何もない。

自分が稼ぐしかない……。
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