記憶堂書店


「実はちょっと、修也の両親について知る機会があって。それを少し話したんですよ。」

源助さんは「そうか……」と少しだけ驚いた様子で頷いた。

「どんな話だった?」
「母親は……、修也を大切に思っていたと」

そう伝えると、源助さんは少しだけ頭を垂れた。修也の母親である花江は源助さんにとって娘でもある。

「源助さんたちは、修也に両親のことをどこまで話しているんですか?」

差し出がましいとは思ったが、龍臣は聞いてみた。

「どこまでも何も、たいして話してはいない。父親は亡くなって、母親は行方不明。今はもう連絡すら寄越さない。どこで何をしているかも見当つかない。それだけだ」
「本当に?」

龍臣は眉を潜めて聞いた。
だってそれでは龍臣が知る少ない情報より、修也が知っていることは少ないではないか。

「修也が聞きたくないと言っていたんだ。だから細かい話はしていない」
「例えば、父親は入院していた事とか?」

龍臣の言葉に源助さんは顔を動かさず、目だけを向けてくる。

「……龍臣君。君はいつから何をどこまで知っているんだい?」
「最近、知りました。それでも知っていることは極わずかですよ」
「それは、誰かの記憶の本を通して知ったのかい?」

そう聞かれて龍臣はドキッとした。
源助さんは今確かに『記憶の本』と言ってきた。記憶の本の存在を知っているということになる。
龍臣はあからさまに動揺した。

「どうして……、それを?」

すると、源助さんは穏やかに微笑んだ。

「君のお祖父さんに聞いたんだよ。私も修也ほどではないが、昔から何度もこの店に遊びに来ては、君のお祖父さんに話し相手になってもらっていた。その時、この店の不思議な力について聞いたんだ」
「そうだったんですか……」

龍臣はわずかばかり肩の力を抜いた。
どうしてもこの力について知る人は少ないため、警戒してしまった。
源助さんはすでに祖父から記憶堂の力について聞いていたのか。だから先日も「何か見たのか」なんて聞いて来たのだなと納得する。

「修也も不思議な力については知っているんだろう?」
「えぇ、まぁ」
「やはりそうか。まぁ、この狭い町だ。いつかは自分の両親について知っていくことが増えるとは思っていたよ」

ハハッと笑う源助さんに龍臣は頭を下げた。







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