俺の言い訳×アイツの言い分〜あの海で君と〜
慶太が台に上がると
琴乃は息を止めていた。


考えてみれば、
慶太の泳ぎは、中学の時以来、見たことがなかったし、

昨日、あんなことを言われたせいで、
観戦するこっちも、緊張してしょうがなかった。


そして、遂にその時…
一瞬、辺りが静まると、
スタートの合図が鳴り
皆、一斉に飛び込んだ。


スタートは良かった。

でも、すぐに、琴乃は眉を潜めた。

(あのストロークで、200なんてもつのかな?)


1回目のターンでは、
トップ争いの中にいた慶太だったが
次第に、順位は下がっていった。


さっき、駿祐のことを話をしていた者達が…

「なんだ?調子悪いのか?」

「弟は、たいしたことないんじゃね?」

誰のことを言っているのか、分かっていた。



その日は、それ以上、慶太の泳ぎを観ることは無く…


「あんなデカイ口叩いといて、このザマだよ。」

自分の腑甲斐なさに、慶太はふさぎ込んでいた。


「…お疲れ様。」

「1回っきゃ泳いでねーから。」

「…」

「似合わねことするから、変に気負っちゃって。」


そんな姿を見て、
どれだけ、こんな私のために、真剣な気持ちで挑んでくれたのかと、
胸がしめつけられる様な、懐かしい痛みを受けた琴乃は、

気がつくと、慶太を抱きしめていた。
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