食人姫
その大柄な男は、暗くても誰かは分かる。


「ん?誰かと思ったら大輔か。神社に何の用だ?」


哲也の親父さんだ。


石段で対峙して、睨み付けるような視線を俺に向ける。


俺も負けじと睨み返すけど、殴られ続けた敗北感からか、すぐに目をそらした。


「もう上には誰もいねえぞ。もう……誰もな」


哲也と光はどこに運ばれたのか、その二人ですらも、死んでいるからいないと言っているのか。


「哲也と光に会って来るんだ」


ボソッと呟いた俺の言葉に、「うーん」と唸り声を上げる親父さん。


儀式が終わった、だから俺が何をしようと問題でないと思っているのか。


それを止めようとする気配が、親父さんからは感じられない。


何も言わない親父さんから逃げるように、石段を上り始めた俺達。


すると……。






「社務所の離れに小屋がある。その中にあいつらはいるからな」





それだけ言って、親父さんは石段を下りて行った。


その言葉に反応もせずに、俺は石段を上る。


一刻も早く、二人を見たい。


死んでいるのは分かっているけど、そうせずにはいられなくて。


石段を、早足で駆け上がった。
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