食人姫
どこが空いてないんだよ。


四人掛けのシートに一人ずつ座ってるだけでガラガラじゃないか。


と、心の中で反論したけど声には出さない。


こういうやつとは関わらない方が良いと思ったから。


出来ればここに座るなと祈りながら、俺は窓の方を向いた。


だけど、その祈りも虚しく、ヤンキーが声を掛けて来たのだ。


「あぁ?おいお前、もしかして……」


せっかく目を合わせないようにしていたのに、空気を読まないヤンキーが俺の顔を覗き込むように迫って来る。


なんだよ……俺にはお前みたいな知り合いなんかいないぞと思いながらも、チラリとその顔を見ると……。


「お!やっぱり大輔じゃねえか!なんだお前、この電車だったのかよ!」


そう言うまでは、眉間にしわを寄せて、喧嘩でも吹っかけているような表情だったヤンキーの顔が、パッと明るくなる。


……誰だよ。


俺の名前を知ってるみたいだけど、こんなにでかい金髪、俺は知らないぞ。


「俺だよ、俺、俺!」


そのセリフが一番誰だか分からない。


オレオレ詐欺か?


「哲也君、それじゃあ分からないと思うよ。僕達も随分変わったしね」
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