ごめんなさい【BL】
 
「ごめんなさい」


 呟いた瞬間、彼の腕に抱き竦められた。


「ごめんなさい…」


 もう一度呟くと、更にその腕が強くなる。


「どうして、そんなことを云んだ」


 躰の芯に響く様な低い声が、切なくこだまする。


「貴方は、僕の敵だから」

「敵って……。そんなにオレの事、嫌い?」


 僕はただ、その言葉を聞いている。


「顔も見たくない程、嫌い?」


 僕が頸を縦に振らないことを知っているのに。

 知っているからこそ、彼は聞いてくる。


「オレはお前を愛してる」


 平気な振りをしてそんなこと云わないで。

 声だけが、本当の気持ちを示しているから。

 辛いんでしょ?

 そのくらい、理解りますよ。

 僕だって、一緒だから…。


「ごめんなさい」


 僕はまた、同じ言葉を繰り返す。


「そうか」


 低く低く。

 呟かれた声。


「残念だよ」


 ゆっくりと上がってきた腕。

 両掌が、僕の頸に触れる。




 力が込められるその腕に、僕はそっと左手を添えた。

 
fin 
 
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