ごめんなさい【BL】
 
「――本当なのか…ソレ……?」

「えぇ、本当ですよ。だから言ったじゃないですか『ごめんなさい』って」

「ふざけんな!! 謝って済むことじゃねェだろ!」


 機械的に繰り出されるその言葉には、感情の欠片すら存在していない。

 そしてその瞳は、オレを視ていない。


「お互い様ですよ」


 冷え切った声が。
 冷え切った視線が。


 唯、向けられる。


「僕が知らないとでも思っているんですか?」


 その言葉に、胸の奥がチクリと痛む。


「隠しているつもりですか?」

「…………」


 たった一度。

 君に逢えない淋しさを紛らわせたかった。

 唯、それだけ。 


「好きな人が、いるんでしょ?」


 ――違う。


「僕のこと、嫌いになったんでしょ?」


 冷たい微笑みを浮かべて、オレに一歩詰め寄る。


「…違う。そーゆーお前は、オレよりアイツが好きなんだろ?」


 聞く耳を持たないこいつに対抗したいのか。

 オレは開き直った風に問いかけた。


「僕は貴方が好きですよ。貴方以外の人なんて要りません」


 一瞬にして。

 その瞳が淋しそうに伏せられる。
 

「でも」


 伏せられた瞳がオレを捕らえた、その時には。


「僕以外の誰かを一度でも視た貴方は嫌いです」


 唯。
 冷たいだけの。
 視線。


「僕の気持ち理解って貰えました? 僕、ちゃんと最初に言いましたよね『ごめんさない』って。貴方は言ってないですよね?」


 謝るとか、謝らないとか。
 
 そもそもオレは。

 間違いなんて犯してない。


「なぁ……」


 街で偶然、君に良く似た小さな女の子に目を留めただけ。


「もう。遅いですよ。謝っても駄目です」


 そして、オレの愛する君は。
 
 信じられないくらい鮮やかな笑みを浮かべて。


『ごめんなさい』


 オレの前から姿を消した。


fin
 

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