情熱のメロディ
 アリアはカイが自分を1人の女性として扱ってくれることに嬉しさを覚え、そして同時に“音楽室”に入ることへの期待と不安を感じていた。
 
 カイの言う音楽室は、ミュラー・ブレネンが使っていたという部屋だ。現在は王妃で元宮廷ピアニストのフローラが主に使っているはず――本来は王族しか入れない。
 
 2階へと上がり、廊下を進んで一番奥の扉を開けたカイは、アリアを促す。

 「あの……本当によろしいのですか?本来なら、私などが2階へ上がるなんてこと――」
 「いいんだよ。ミュラーの音楽を演奏するのに、最適な場所だから。ミュラーも君のような素晴らしいバイオリニストなら歓迎すると思うしね」

 カイがとても嬉しそうに笑うので、アリアはそれ以上何も言えず、カイに従って恐る恐る部屋へ足を踏み入れた。
 
 グランドピアノは国内で指折りのメーカーのもので、きちんと手入れがされており、光ってみえる。本棚にはたくさんの楽譜、そしてソファと小さなテーブルと椅子のセットが置かれていた。

 「譜面台はピアノの隣にあるものを使ってくれる?少しウォームアップをしたら一度合わせてみよう」
 「はい」

 アリアはカイの提案に頷き、カイがテーブルへ置いてくれたバイオリンケースに手を掛けた。ずっと愛用しているバイオリンを取り出し、弦を調整してピッチを合わせていく。
 
 カイも部屋に置いてあったバイオリンを取り出してピアノを弾きながら一本ずつピッチを合わせている。少しずつピッチのずれが直っていくカイのバイオリンと澄んだピアノの音を聴きながら、アリアも引き寄せられるように自分の音を寄り添わせた。
 
< 10 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop