情熱のメロディ

(3)

 翌日もその翌日も、練習は捗らないまま過ぎた。

 カイの音は柔らかくなったけれど、アリアには何かが軋むような苦しさの方が大きく響いて演奏がつらい。

 まだ練習は始まったばかりで、焦るようなタイミングではない。だが、技術的な問題よりも難しい課題に片づけをしながら思わずため息が漏れる。

 アリアとカイの間にある解釈の差は、どうやっても埋まらないのではないだろうか……と、そんな風にも思えるくらいカイの音はアリアの音と違う。

 「ごめん……今日も時間を無駄にしてしまった」

 カイが自嘲する表情がとても切なく歪み、アリアの心もチクリと痛む。

 「いいえ……カイ様のせいではありません」

 これは2人の演奏だ。お互いに歩み寄らなければならないのだから、どちらか一方が悪いということはない。アリアとカイの間には、まだ遠慮もある。まずはそれを克服しなければ、最高の音楽は作れないだろう。

 アリアはギュッと拳を握って大きく息を吸い込んだ。

 「カイ様は……カイ様の音は、とても苦しいです。切なさとは違う、もっと、息ができないような苦しさがあって……どうして、そう思うのですか?」

 カイの音から感じられる想いには、恋する明るい気持ちが入っていないのだ。苦しくて、つらくて、悲しい。そんな負の感情ばかり……

 「僕は――」

 アリアの指摘に、カイは一度目を閉じて息を吐く。だが、言いかけた言葉を微かな笑みと共に止めて首を振った。

 「いや、そうだね。夢なら……楽しい夢がいい」

 そう言うと、カイはバイオリンのケースを閉じて顔を上げた。

 「アリア。この後、時間ある?」
 「え……?」
 「衣装を選びに行こう」
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