情熱のメロディ
 「同じ……です」

 アリアはギュッとノートを胸に掻き抱き、呟いた。

 アリアの憧れだった初恋は、いつのまにか淡い少女のそれでは収まりきらなくなった。カイへの想いは募るばかりで、しかし、ミュラーと同じでアリアはそれを伝えることができない。

 ――『次に貴女の演奏を聴くときは、秘密を教えて欲しいわ』
 
 アリアが自分の気持ちをすべて乗せて音にしたら、カイはきっと気づく。フローラがアリアの秘密の恋に気づいたように、伝わってしまうから。

 本当は知っている。カイとの解釈の差もそうだったけれど、アリア自身が自分を胸の奥に閉じ込めたまま演奏をしているから……だから、いつまで経ってもカイの音に近づけないのだと。100%の気持ちを込められていないから、アリアの音はいつまでも不完全なままなのだ。それがアリアの迷いの一番大きな原因とも言える。

 音楽祭まで時間がなくて、アリアの気持ちも秘めたままで……こんなことでは音楽祭は成功しないのに。

 カイに知られたくない。身の丈に合わない恋を、叶わない恋を、自らの手で壊したくない。綺麗なまま、思い出にしたい。

 けれど、アリアのわがままで音楽祭を台無しにもしたくない。

 どうしたらいいのだろう。

 答えがでないまま、また今日も……カイとの練習が始まる。

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