情熱のメロディ
「ねぇ、アリア。それは、アリア1人が背負うことなのかい?」

 ハンスは穏やかに話し始める。

「デュオは、1人で演奏するわけではない。カイ様は王子だから……アリアは遠慮があるのかもしれないけれど、音楽は誰にでも平等だ。カイ様ともう一度話してみるのが、一番の解決策だと私は思うよ」

 話してみる――一体、何を話せばいいのだろう。カイはきっとアリアに歩み寄ってくれるだろう。けれど、アリアには伝えられない想いがたくさんある。それは、カイを拒絶することと同義だ。

 「アリア……君の長所は素直なところ。正直なところだ。だからこそ、君の音楽はフラメ王国という厳しい芸術の世界で輝いている。カイ様も、そういう君の純粋さを気に入って音楽祭のゲストとして推薦してくれたのではないのかい?」

 ――『君は純粋で、素直で、こんなにも素敵な音楽を奏でる綺麗な心を持っている』

 練習を始めた頃、カイはそう言ってくれた。確かにアリアは本能のままに音楽を弾き、自分に正直であった。しかし、今は違う。今は、己の心に生まれた“もっと”という気持ちを抑えて演奏していて、カイに自分の汚い部分を見せたくなくて、必死で……

 「本心を見せるのは怖いことだ。でも、アリアはそれを自然にやっていた。音楽への情熱を、すべてを曝け出していた。今までできていたことなのだから……あまり、考えすぎてはいけないよ」

 ハンスは言い終えると静かに立ち上がり部屋を出て行った。

 アリアも言われたことを反芻しながらバイオリンを片付ける。自分を偽る音楽は苦しいだけだ。でも、すべてを曝け出しそれを拒まれることはもっとつらい経験になるだろう。
一体、どうしたらいいのか。
 
 「そんな不安そうな顔で、音楽祭に出るつもり?」

 アリアが大きく息を吐き出したとき、控え室の扉が乱暴に開かれた。
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