情熱のメロディ
 アリアはカイに秘密があって欲しいと願っている。どこかで、それを教えてくれるのではないかと。勘違い、傲慢、何でもいい。カイの秘密がアリアの望むものでなくても、真実を知ることができるのなら……

 偽りの、隠し事ばかりの音楽はつらい。

 「カイ様は……解釈を聞いたときも答えてくれませんでした。カイ様は何も私に言ってくれません。パートナーなのに……」
 「それは君も一緒だ。君はまだ、何を隠しているのか教えてくれていない。いや……教えてくれるつもりはないんでしょう?」

 カイはアリアに背を向けてバイオリンを片付け始める。アリアは唇を噛んで、カイの大きな背中を見つめた。

 言わないと決めた。ミュラーの夢を忠実に再現することだけを考えると……それなのに、また迷い始めたアリアの心はカイを求めすぎて、軋んだ音を奏でる。
  
 「このまま言わないほうがいい。それが、ミュラーの夢でもある」

 カイはそう言って、やはり一度もアリアを視界に入れようとせず、音楽室を出て行ってしまった。いつもはぎこちないながらも見送りはしてくれるのに……

 その後、練習は当初の予定通りこなしたけれど、2人は気まずい雰囲気のまま、音楽も時を止めたように動かなくなった。

 上辺を繕っただけの演奏、作曲家に忠実な解釈――“ミュラーの夢”という仮面を被せた2人のメロディは悲しく響いていく。

 やはり、アリアは過剰な期待をしすぎたのかもしれない。カイは呆れているのだろうか。アリアが図々しい夢を見ていることに。

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