情熱のメロディ
 「夢……ですか。素敵な曲ですよね。私のお気に入りのひとつです。ぜひ、カイ様と演奏したいです」

 ミュラーが王妃へと送ったと言われている美しい調べは、婚約パーティや結婚式などでも多く演奏される曲だ。
 
 アリアが一生に一度だけ見ることの出来る、甘く淡い恋の夢――そう、これは“夢”だ。カイとのデュオに、そしてこの音楽祭に、これ以上にぴったりな曲はない。

 「そっか……良かった」

 カイはそう言って視線を落とし、息を吐く。それから立ち上がって、アリアへと右手を差し出した。

 「これから音楽祭まで……改めて、よろしく。アリア」
 「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」

 アリアも同じように立ち上がり、カイの右手へと自分のそれを持っていく。
 
 ふわりと握られた手は、とても大きくて温かい。少しだけ長い握手の間、アリアは高鳴る鼓動と共に、カイの呟きのような言葉を聞いた。

 「君と共演できるなんて、夢みたいだ――…」

 カイから紡がれるその音が、寂しく心に沈む。そこに含まれるのが、諦めにも似た感情だと思うのはどうしてなのか、アリアにはまだ聴こえないまま……カイは「また明日」と言い残して次の公務へと出かけてしまった。
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