監獄の中で僕らは生きてゆく
雨夜捺華(あまやなつか)
陽の光を浴びることなく、頭にも響くような煩い電子音に起こされる。
突起している部分を押すとその音は止み、清々しい朝を迎えた。
欠伸をしながら伸びをし、時間を確認すると6時だった。

さて、ここの監獄に来て俺はそろそろ一年半になる。
外で雪が降っている時期に俺は此処に来たのだ。とても寒くて入口の門から随分歩いたことを未だに覚えている。ここの外観を見た時には至って普通過ぎてビックリしたものだ。むしろほかのとこと比べ綺麗にされているようだった。


そしてなんでここに来たのか、というと看守になる為だ。どうしてかというとハッキリ言えば給料が良くて年齢制限がないからだ。仕事内容は酷いものだが、それなりに融通もきく。好条件だった。しかも、衣食住つき。大変ありがたいものだ。

ここの監獄はS~Bランクの棟があり、ランクに応じて囚人や看守が別けられている。Sが一番危険なところだ。大量殺人犯やテロリストなど危なっかしい奴らばかりいる。その中にも一人、俺の友達がいるのだがな。ーー余りにもそいつは純粋な奴だが



そして今日は待ちに待った給料日である。此処はATMなども無いので、封筒に1ヶ月分の給料がいれられ、そして手渡しで渡される。看守長がいるらしいが、その人から貰ったことは一度もない。というより、ここに来てから一度も見たことがないのだ。どの看守に聞いても誰も姿も見たことないし名前も何も知らないみたいだった。俺の勝手だが、いつかは見てみたいなぁと思っている。


地下にある看守部屋のベッドの上でゴロゴロしていると、コンコンコンと3回ドアがノックされた。
俺は起き上がり、扉を叩いた主にどうぞ、と一声かけると音を立てて扉が開いた。

「朝早くにすみません。お給料をまとめて渡されたので渡しに来ました。」
「大丈夫ですよー。それよりこちらこそ寝巻きのままで申し訳ないです。」

部屋に訪れた人は180cm後半を超える背の高い男性で、綺麗な顔立ちをした春兎(はると)さんだ。上品な言葉をつむぐ口元近くの顎には黒子がぽつんとあり、男性ならではの独特の色香を放っている。彼の体を包み込む質の良さそうな着物は皺ひとつなく、清潔にされているようだった。


「朝早いですからね。詩騎(しき)さんは起きてますかねぇ」


少し苦そうに笑いながら片眼しか見えない顔をこちらに向ける。俺も笑いながら多分起きてないですよ、と言うと春兎さんはため息をついた。


詩騎というのは俺より一つ下の可愛い弟分のような男の子だ。一生懸命なのだが、ドジっ子でいろいろとやらかすことが多い。それでもあまり怒られないのは彼が精一杯やっているのを誰もが知っているからだろう。最近は恋人が出来たと喜んで報告をしてきたうえ、少しでも時間があくとその恋人のもとへ行き愛を深めているようだ。
ただ、恋人といっても相手も男の子なのだが。偏見するような奴はこの中には居ないようでとても安心したものだ。
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