【超短編 01】猫のクルール
 もちろん彼女に強い嫉妬を抱くメスもたくさんいて、中でも一番に敵意を持っていたのが老猫のジョセフだった。同じ猫という立場もさることながら、老いた自分と彼女を照らし合わせては
「私の若い頃のほうが綺麗だった」
と嘯いた。
 ある時ジョセフは、月の出ていない真夜中にクルールを憎むメスの動物たちを近所の駐車場に集め、何とかして彼女に一泡吹かせる方法はないものか、と企てた。
「それなら、あの忌々しい白い毛を真っ黒にしてやるのが一番よ」
とカラスのアンナが言い出した。
「そうよ。何と言っても、あの色白さがあのブスをごまかしているに過ぎないわ」
 ブルドックのサリーが同調するとみんな口を揃えて、そうだ、そうだと盛り上がり、どんな方法で汚してやろうかと考え始め、やれ落とし穴に落としてやるだの、やれ泥団子を投げつけてやるだの、議論は白熱し気付けば朝になっていた。
 結論が出ないまま夜明けを迎えたメスたちが、ふと上を向くと、ぐっすりと睡眠をとって目をパッチリさせたクルールが通りかかった。今朝までに出た様々な悪巧みが頭の中を交錯しながら睨み付けるメスたちを見て、クルールはクスリと笑って、こう言った。
「あら、こんな大勢お集まりで何のご相談かしら。夜はちゃんと寝たほうがいいわ。みなさん目の下にクマが出来て、真っ黒よ」
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