異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「それで、秋人おじさんは……」

「待ちなさい。まずはお菓子をいただいてから。せっかくあなた達の為に焼いたのだから、冷めてはもったいないわ」


ライムおばあちゃんは急かすあたしを宥めるように首を傾げ、切り分けられたパイにクリームを添える。


「はい。和さん、召し上がってみてください」

「は……はあ」


隣に座ったあたしにライムおばあちゃんはフォークを手渡してきて、なんだかすぐに食べないといけない空気をビシバシ感じますよ。気が進まないままアップルパイにフォークを入れると、サクッと軽い音がしてきれいに割れる。そのままフォークで口に入れてみて、驚いた。


バターのコクとはちみつを使ったくどくない甘さ。パイのサクサク感と、りんごの甘酸っぱさがからみあってる。


よくあるアップルパイと言いたいけど……これは、この味は。


あたしが目を見開いてライムおばあちゃんを見上げると、彼女はニコッと笑って頷いた。


やっぱり、知っていたんだ。


ライムおばあちゃんは……


秋人おじさんだけでなく。


あたしのお母さんのことも。

だって……あたしは、知ってる。

この味に、この食感を。


幼い時から数えきれないほど口にしたから。


「懐かしいでしょう? ヒトミのレシピそのものですものね」


迷いなく母の名前を出したライムおばあちゃんは、あたしをそっと抱きしめた。


「よく来たわね、和。あなたのお母様の本当の故郷へ」


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