異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「気に入っていただけましたか?」

「あ、はい。とても。本当にきれい……」


馬車で対面式に座っているセリス王子にクスリと笑われ、恥ずかしくなったけど素直に頷いた。


だって、きれいなものをきれいって言ってもおかしくないよね? はしゃいだのは子どもっぽいかもしれないけど。

たぶん、こうして水晶宮殿を訪れるのは最初で最後になる。ディアン帝国に戻って秋人おじさんに日本へ帰してもらったら……二度とこの世界に来られない。


だから、あたしはよく目に焼きつけようと窓から必死に目を凝らした。ミス·フレイルがいたらはしたないと眉をひそめただろうけど、彼女は後ろの馬車だからいいんだ。


「和さん」

「……はい?」


あまりに必死に見ていたからか、セリス王子の呼びかけにすぐには答えられなくて。数秒遅れて慌てて返事をした。


「そんなに慌てなくても、宮殿は逃げたりしませんよ」


また、笑われてしまいました。さすがにあたしも恥ずかしくなって、頬が熱くなってきた。窓から離れて膝の上に置いた両手に目を落とす。


「そんなに落ち込まないでください。別にあなたを責めたわけではありませんから」


セリス王子はそう言うと、しばらく押し黙る。


そして、再度口を開いた彼は意外なことを言い出した。


< 317 / 877 >

この作品をシェア

pagetop