異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



「ひゃいひひおうひほ、ひゃいひおうはは、はくはっはっへ……」

「口にものを入れてしゃべっちゃダメだよ」


美味しくてついつい次々と口に放り込んでいたら、ハムスターみたいにほっぺたが膨らんだ。そりゃしゃべっても意味不明ですわな。


渡された緑茶でクッキーを飲み込んだあたしは、ぷはっと息を吐いておずおずとユズに訊いてみた。


「あのさ……何年か前の国境戦争では、セイレスティア王国の第一王子と第二王子が亡くなったでしょ? それに、たくさんの人が亡くなって……恨み辛みだってありそうじゃない。あたし達は直接戦争には関わってないけど、やっぱり被害にあった人には複雑じゃないのかな?」

「確かに、そうなんだけどね」

ユズは新しいお茶としてアップルティーを淹れてもらい、砂糖を落としてスプーンでかき混ぜる。カラカラと涼やかな音が、彼女の戸惑いを伝えてきた。


「それを言うなら、ディアン帝国だっていいの? そちらだって少なからず亡くなった人がいる。遺恨とか禍根なら、絶対にないとは言えないけど」


けど、とユズはスプーンをソーサーに置くと、ティーカップを手に持った。


「あえてそうであると認めた上で、仲直りを決断したのはそれぞれの国のトップ。全てを水に流すのは難しいけど、過去に囚われるだけじゃなくて、未来を選んだ。未来を見据えて、新しい関係を作る。それってとても素敵な選択だとあたしは思うよ」


いつまでも過去に囚われていたら、何も生まれないもんね。そう言ってユズは笑った。


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