異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。






「よかったです、気がついて」

あたしがいる部屋にて。翼で胸を撫で下ろしたのが、レヤー。半目で彼を見てたのが浮いてるヒスイだった。





あたしがバルドと契約した後、ハロルド国王陛下協力の元でセリス王子のよみがえりの儀式が執り行われた。


体を仮死状態にして魂だけ天上界に行く、なんてハードな儀式だったけど。ヒスイやレヤーをはじめとするみんなの協力で無事に完遂できた。


セリス王子はどうなったかと言えば、今は意識を取り戻して療養中らしい。身体の損傷はハロルド国王陛下が修復していたから、魂が戻ればあとは普通だと思われたけど。


……ただ、ひとつだけ予想外の結果があった。


それは、セリス王子の記憶がまっさらなままだったこと。


つまり……


天上界から戻された時のままで、彼は自分がどこの誰かわからぬまま見知らぬ人に囲まれ目覚めたということ。


どうやら、天上界――永霊界であった出来事もすべて憶えてないらしい。

まるで、生まれたての赤ちゃんのようにまっさらな状態でセリス王子はよみがえった。


けれど、誰一人あたしを責めることはなく。国王陛下からすら涙を流して「ありがとう」と言われたら、こちらが謝ることもできなくて。


今、セリス王子のそばにはナネットさんが付き添ってる。


もともと婚約者として有力な候補だった彼女は、セリナにも気に入られていて。何よりも純粋にセリス王子を慕っている。何もかも忘れたというのに、それでもそばにいることを選んだなら、本当に心の底から彼を愛しているんだろう。


そのあたたかな気持ちに、純粋な想いに、彼が気づいてくれたらと思う。


きっと、いつか。セリス王子はナネットさんを愛する。


それで、いい。


セリス王子のこれからの人生の岐路にあたしが関わることは、たぶんもうないだろう。

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