異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。




「わたしは……父親を知りません」


あたしは、あっさりとアイカさんに告白した。


「だから、ちゃんとお父様との思い出があるアイカさんがうらやましいです。でも、わたしはお父さんがいなくても……寂しい気持ちはありますけど、恥ずかしいとは微塵にも思いません。だって、お母さんが一生懸命育ててくれましたから。
母子家庭だろうと、平民だろうと。わたしは自分の生まれや育ちを卑下するつもりはありませんよ」


あたしは、これだけはアイカさんに伝えたかった。


「だって、生まれや育ちをなくしたいだなんて、とんでもないエゴだしわがままですよ。それまで自分に関わったすべて――ひいては自分を否定することになるんですから」


にっこり笑って言って差し上げました。かなりのいい子ちゃんな優等生的な考えなのはわかってる。だけど、後ろ向きにうじうじしてるよりはマシだ。


あたしはアイカさんの小さな手を包み込んで彼女を見据えた。


「だから、あなたも何も恥じることはないですよ。胸を張って堂々としていればいいんです。なんやかや言われたら“だから、なに?”ってスルーしてやればいいんです」


あたしのアドバイスに虚を突かれたのか、しばしポカンとしていたアイカさんだけど。


やがて、プッと小さく噴き出した。


「……そうですわね、妃殿下のおっしゃる通りですわ。わたくしが誰かに頼りたくなるのも……きっと不安で仕方なかったからですわね」


フッと漏らしたのは、たぶん本音の一部。車窓の外から遠くを眺めるアイカさんは、何だか哀愁を帯びた瞳をしていた。


なにか……彼女には何かがある。そう感じてはいても、今はそれ以上は訊けなくて。国境で車に乗り換えるまで沈黙が続いた。


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