異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



でも、いい。


あたしは……きっとまた、愛せるから。


《雷焔、もっと持っていって! 龍を完全に押さえて!!》


あたしの望みに応えるように、雷焔の力が強まる。それと同時に、ライネス皇子が動いた。


動き出した“龍”に向かうと、抜いた剣で何かを描き始める。おそらく結界を強化する術だ。ヒスイもそれを手助けするためか、力を貸している。


アスカ妃は皆を励ましつつ、より一層大きな声で歌う。その温かな歌声は次第に広がり、皇后の心に届いた。


《――今だ、和》


ふと、秋人おじさんの声が聞こえた気がした。


振り替えれば――おじさんの笑顔が微かに見えて。


あたしは……水瀬の巫女の力を全て、皇后へ向けた。




「思い出して……あなたはマリールイズ。ただの一人の女性ということを!」




あたしが叫んだ刹那――




皇后が、ハッと目を開いた。




「わたくしは……マリールイズ……マリィ……皇后マリールイズ」




彼女が正気に戻った瞬間。


黒い焔も、霧もすべてが失われた……そして。


“龍”は雷焔に完全に押され、ライネス皇子とヒスイが施した封印へと飲み込まれてゆく。


それを見届けた瞬間――


あたしの意識は闇へと落ちていった。






< 864 / 877 >

この作品をシェア

pagetop