結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
リサは黙って写真集をレナに手渡す。

レナは静かにページをめくり、そこに写る自分の姿を見た。

自分でも知らなかった顔。

寂しげに遠くを見つめる顔。

物憂げにうつむく顔。

そして、泣きながら微笑む顔。

「………。」

「レナのこういう顔は、やっぱり須藤さんじゃないと撮れないわね。」

「…うん。」

「これを私宛に送ったのは、須藤さんなりのケジメじゃないの?」

「え?」

「理由はどうあれ、1度は結婚しようって、レナをニューヨークに連れて行ったでしょ?」

「うん。」

「母親である私に、レナをお返ししますって意味じゃないかなって。婚約解消したのはレナの気持ちを理解した上でのことだったと思うけど、須藤さんなりに申し訳なく思ってたんじゃないの?」

「須藤さんとの間には何もなかったし、須藤さんにはなんの非もないよ?むしろ謝らないといけないのは私の方なのに…。」

「それでもね…。結婚の話をしたのは、須藤さんにもそれなりの覚悟があってのことだと思う。ユウくんと一緒になるのとは、また訳が違うでしょ。」

「そうだね…。」

「須藤さんはレナのことをほっとけなかったでしょ。一人にさせられないって、レナの心配ばっかりしてたもんね。」

「うん。」

「レナを守るつもりで結婚まで考えて、ニューヨークに連れて行ったのに…その時にはレナはユウくんと再会した後だったんでしょ?」

「うん。須藤さんとの結婚決めて、2週間後くらいに、病気になった須藤さんの代わりに行った撮影でユウと再会したの。その後、須藤さんは先にニューヨークに行ったんだけど、私は仕事の区切りがつくまでは日本にいることになって…。私は須藤さんと結婚するって決めたんだから、ユウのことはもう考えないって…あきらめようって…ずっと待ってたのに今更遅すぎるって、思ってたんだけど…。」

「レナには、ユウくんじゃなきゃ、ダメだったんだよね。」

「うん…。」

「それが須藤さんにもわかったから、レナを日本に帰してくれたんでしょ。本当に人がいいって言うか、不器用って言うか。」

「えっ?!」

「レナが子供の頃からずっと、父親とか兄みたいに見守ってくれたから、レナは須藤さんを保護者みたいに思ってると思うけど…。」

リサは写真集に写る、泣きながら微笑むレナを見つめて静かに微笑んだ。

「須藤さんは…レナのことを、すごく愛してたと思う。」

「え…。」

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