結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
ユウの少し慌てたような不安そうな顔を見て、レナは小さく笑う。

「嘘。作らなかった。あげる人もいないのに、作ったって仕方ないもん。」

「えっ?!」

「私、昔からバレンタインチョコなんて、ユウにしか渡してない。だから、バレンタインも高2以来だよ。」

「そうなんだ…。」

レナはバレンタインチョコでさえ、自分だけにしか渡したことがなかったと聞いて、ユウは途端に嬉しくなり口元をゆるめる。

(バレンタインチョコまで、オレだけ…。)


昔は、レナに嫌われるのが怖かった。

いつも、レナに好かれたいと思っていた。

自分の気持ちを打ち明ける勇気もなかった。

だけど、レナは昔から自分のことを大切に想ってくれていたんだと、今更ながら思う。

(ヤバイ…すげー嬉しい…。)


「どれにしようかな…。」

レナはショーケースに並んだ、たくさんの華やかなチョコを眺めている。

「これにしようかな。」

レナはボンボンの詰め合わせを選ぶと、会計を済ませて、ニコッと笑った。

「お待たせ。次は食料品売り場に行こ。」

「ああ、うん。」


それから二人は食料品と、特別な今日のために少し高いシャンパンを買った。

「今夜は二人で、入籍のお祝いね。」

「うん。」

ユウは高級レストランで贅沢な食事などしなくても、レナと一緒なら、ささやかなお祝いも最高の贅沢になるような気がした。



その夜、数日ぶりに帰ってきた住み慣れた二人の部屋で、ユウとレナはささやかな入籍のお祝いをした。

いつもより少しだけ贅沢なステーキ用のお肉をレナが焼いて、サラダやスープを作り、ベーカリーで買った少しだけ高いパンを並べ、ちょっと贅沢なシャンパンをグラスに注いだ。

静かにシャンパンのグラスを合わせると、ゆっくりと味わう。

「レナの作った料理が、オレには最高の贅沢なのかも。」

「嬉しいな。」

誰にも邪魔されず、人目も気にせずに、ゆっくりと二人で過ごす時間は、何事にも替え難い、幸せな時間だった。



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