結婚の定義──君と僕を繋ぐもの──
翌日からショーが終わるまで、レナはカメラマンの仕事を休み、ショーの打ち合わせやレッスンに通うことになった。

そんな日が数日続き、その日レナはリサのアトリエで初めてドレスを試着した。

「思った通り、よく似合うわね。」

日本に滞在している直子も、レナのウエディングドレス姿を見ようとアトリエを訪れていた。

リサはレナにドレスを着せ、手直しする箇所を探す。

「レナ、痩せたわね。もう少しここ詰めないとね…。」

「うん…。」

リサがドレスの背中の部分を仮縫いする。

鏡に映る初めてのウエディングドレス姿を、レナはどこか切ない気持ちで眺めていた。


(本当は、いつかはユウの隣で…って思ってた…。)

ずっと一緒にいようと言ってくれたユウが、結婚しようといつか言ってくれるのだと、レナはおぼろげに夢を見ていた。

ユウと一緒にいられるだけで幸せだと思っていたのは嘘ではないけれど、いつかはユウのお嫁さんになりたいと、思っていた。

結婚だけがすべてではないけど、一生ユウの隣にいるのは自分でありたいと願っていた。

(まさか、こんなことになるとはね…。)

人見知りで、目立つのが嫌いで、人前に出ることを避けてきた。

人の目が怖くて、ショーに出ないかと誘われてもいつも断り、人目に晒されることからずっと逃げてきた。

(でも、今の私にできることは…。)


リサが用意したドレスに合わせたハイヒールを履き、リサにベールをつけてもらう。

「素敵ね…。」

直子は小さく呟く。

3人は、鏡に映るウエディングドレスに身を包んだレナの姿を、静かに見つめていた。

そこへ静寂を切り裂くように、レナのスマホが鳴る。

(タクミくんから…?)

妙な胸騒ぎを覚え、レナは急いで電話に出る。

「もしもし?」

「あーちゃん!!ユウが!!」

「えっ?!」

「ユウが、事故にあって!!車にはねられて、救急車で運ばれた!!かなりヤバイ!!」

「…え…?」

レナは頭が真っ白になり、持っていたスマホを落とした。

レナのただならぬ雰囲気に、リサは慌ててスマホを拾い上げる。

「どうしたの、レナ?」

「ユウが…車にはねられて…危ないって…。」

「えっ?!」

リサは呆然としているレナに代わって電話に出ると、タクミから病院の場所を聞き、レナの腕を掴む。

「レナ、しっかりしなさい!!」

「あっ…。」

「ほら、行くわよ!!直子さんも!」

レナはドレスを着たまま、リサの車に押し込まれるようにしてユウが運ばれた病院へと向かった。

(お願い、ユウ…。死なないで…!!ちゃんと生きてさえいてくれたら、私は…!!)


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