その瞳に映りませんように
私の後ろの席にいる君――ユズキくんは、
見た目は格好良い部類だけど、あまりクラスで目立つタイプではない。
普通に友達もいて、普通に彼女もいたりいなかったりする(今はいないらしい)。
だけど、私の中では特別な存在だった。
「ユズキくん、お願い」
「ん」
先生が列ごとに配布するプリントを後ろに回す瞬間が、私のささやかな楽しみ。
わたしが彼の目を見つめたとしても、視線が重なることはない。
授業中はたいていぼけーっとしているようで、たぶんその焦点はこの世界と似て非なる異次元空間にトリップしているんだと思う。
きりーつ、れい。
ありがとうございました。
ちゃくせきー。
昼休み前の授業終わり。
空腹と昼食ルンルンの狭間のノリで、勢いよく席についた私。
ゴスッ、とユズキくんの机に椅子をぶつけてしまった。
「あ、ごめん」
「うん」
急いで振り向いても、彼が見ているのは私の視界、やや下あたりだろうか。
今のその視線は、フォークボールの軌道を描いていたのだと思う。
今のは事故だったけど、予定外でユズキくんの目を見ることができた。ラッキー。