僕には霊感があった。
妻は食事を摂らなくなった。家事もしなくなった。炊事も洗濯も全て僕がやった。


「ごめんなさい、あなた。何もする気が起きなくて」

濡れた瞳で縋るように僕を見詰め、本当に申し訳なさそうに謝る妻を責めるなんてこと、僕にできるわけがない。妻を愛しているのだから。この世の他の何よりも妻が大切で、掛け替えのない存在なのだから。


「いいんだ、気にするな。僕たちは宝物を奪われたんだ、無理もないよ。家事なんか僕がやれば済む話じゃないか」

「でも……友紀はここにいるのに……。ねぇ、あなたにも見えてるでしょ? だってあなた……霊感があったものね?」

「もちろん、見えるよ。友紀、おいで。パパが抱っこしてあげるから」

僕も妻の前では、まるで友紀がそこに居るように振舞った。


「だけど、少しでも何か口にした方がいい。僕は君の身体が心配だ」

友紀を抱き上げる素振りをして見せながら、それとなく言ってみた。

「ええ、でも食欲がないの」

妻は憂いたように目を伏せ、弱々しく呟いた。そんな彼女を見たら、胸が引き裂かれるような心地がして苦しくなった。


「何か他に悩みでもあるの?」

「ええ、実は……近所の奥さんたちに無視されているの」

「ひどいな。ただでさえ君は、苦しんでるってのに」

「仕方ないわ。彼女たちに友紀は見えないんですもの。見えてる私を気味悪がっても当然よ。でもだからって、彼女たちの前では友紀の存在を無視するなんて、そんなこと私にはできない。だって、友紀はここに居るんだから」

そう言って、僕の腕の中にいるはずの友紀の頭を優しく撫でた。僕には見えない友紀に満面の笑みを注ぐ妻は、とても正気には見えなかったが、けれどとても美しく。

やっぱり僕は、妻を愛しているのだと、改めて痛感した。


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