明日の僕らは



「るい。」


2回、肩を叩いて。

俺が名前を呼んだ、その何度目かに…
仰向けに寝転がった、ベッドの上の…彼女、田迎るいの瞼が…ピクリ、と動いた。


「……るい?」

もう一度。今度はゆっくりと肩を鳴らして、声を掛けた。



毎日太陽の日を浴びて、小麦色だったあの頃とはうって変わって…、こんなに色白だったのか、と…初めて知った。

付き合いは長いのに。本当は…知らないことだらけだって、思い知る。



何でるいが…こんな場所にいるのか?
わかっているのに…分かりたくない。

矛盾だらけの感情が…渦巻く。



「…………。『み…どり』。」

不意に動いた口元が…かつて、俺が呼ばれていたあだ名をなぞるようにして告げる様子に…。少しだけ…ホッした。


いつの時だったか、確か…サッカースポ少に在籍していた頃につけられた、ひどく懐かしい呼び名。



「田迎。誰かわかる?」

「……あれ?間宮…くん?」

徐々に意識がハッキリとしてきたのだろう。るいは、苦痛に顔を歪めて…こじ開けるようにして、いよいよ瞳を開いた。

黒目をしばらく…ユラユラとさせた後、少し首を捻って…、俺が立つその場所へと…視線を移す。

「……待って、めまいする…。そっか。トラバーチャンだからだね、間宮くん」

「いいから、目閉じてて。あと、天井、トラバーチンね」

「ん。大丈夫、大丈夫…。ばーちゃんみたいでごめんだけど、ベッド起こしてもらってもいい?」

冗談なのか、真面目なのか、まだ定まらない視線からは読み取ることができない。

「いいけど、無理は…」

「女の子の寝顔をタダで見ようと?」

「・・・はいはい」


懐かしい憎まれ口。
遠慮のない、語り。


それをひとまず流しながら…、ベッド横のレバーを回していく。

「あ、やり方知ってるんだ?…ありがとねー。」


ゆっくりと起こされていく上体にタイミングを合わせるようにして…

るいはまた、目を開けた。
今度は、片目だけ――…。


「……あー、頭痛い…。」

「薬は?」

「飲んだ、と…思う。何だっけ、アレ、生理痛によく効く…」

「ロキ〇ニン?」

「うん。そうそう、当たり!大正解!うん。飲んだ、もう痛くない」

「その鬼メンタル、懐かしい」

「うん、懐かしいよね」


カラカラと笑う…あけっらかんとした性格だって…変わってなど…いない。


「びっくりした。まさか間宮くんが来るだなんて思わなかった。誰に聞いたの?…事故のこと。」

「…………」

「自分でもびっくりなんだよね、この状況。うん、びっくり。車運転してて、何でか標識にぶつかったらしいんだけど…、何でぶつかったのか、事故の瞬間とか覚えてないんだよ?気づいたら…病院でしょ?しかも、ICU。人生で救急車に乗る日が来るなんて……。」

「……そっか」

「そう言えば…、間宮くん、部活の紅白戦に出るんじゃなかった?行かなくて大丈夫?」

「……ん。それは、もう終わった」

「…あー…そっか。そうなんだ…」

ひとしきり喋った彼女は、長い息を吐くと。
ベッドから正面の壁に貼られているカレンダーを、じっと…見つめた。

病室のライトが眩しいのか…開いた片目でさえも、細めるようにして。

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