きみと駆けるアイディールワールド―緑風の章、セーブポイントから―

○未来をつかめるか?

 ニコルさんの足下から、暴風みたいな魔力が吹き上がった。すごい勢いでスキルがコマンドされる。逆立つ銀髪。帽子が吹き飛んだ。ローブがはためく。
「手を緩めろ! 朝綺を解放しろ!」
 大なぎに振り下ろされる杖。先端の珠が描いた軌跡そのまま、半月形の光が宙を走る。
 “翠輝月刃”
 光の刃はマーリドの胸に突き立った。マーリドが動きを止める。でも、オゴデイくんをつかんだ手は緩まない。
「くそっ……!」
 ニコルさんが再び詠唱に入る。魔力の噴出が、まるで竜巻だ。こんなの何度も使ってたら、あっという間にスタミナが尽きちゃう。
「落ち着いてください、ニコルさんっ」
「ルラの言うとおりよ。ワタシに考えがある」
 低く押し殺したシャリンさんの声に、ニコルさんが呪文の詠唱を止める。
「考え? シャリン、何をするつもりだ?」
「シンプルなことよ。マーリドのプログラムを破壊して削除《デリート》する」
 アタシとニコルさんは同時に、悲鳴みたいな声を上げた。
 マーリドを削除《デリート》って、ピアズのプログラムを破壊するってことだよね? いくらなんでも法に触れる気がする。
 シャリンさんは本気だ。凛として言い放った。
「破壊と同時に、オゴデイのプログラムを解析して、朝綺の意識を分離する。時間がないわ。手伝いなさい」
 ヒット判定でフリーズしてたマーリドが、動きを再開する。オゴデイくんのスタミナが、また、じわじわ減り始める。
 ニコルさんがうなずいた。
「了解だよ。ボクは何をすればいい?」
 うん、そうだよね。そう来なくちゃね。ルール違反なのはわかってる。ピアズに2度とログインできなくなるかもしれない。それでもいい。だって、朝綺さんの命が懸かってるんだから!
「アタシも協力します!」
「当然でしょ。最初から頭数に入れてるわよ」
 あ、なんかそのセリフ、嬉しいぞ。信用してもらってる感じ、ひしひし伝わってくるぞ。
「そんじゃ、作戦開始ってことで!」
「ええ。ワタシは今からピアズの裏側に入り込むわ。表層で動くアバターのシャリンはその間、動かせない。ダメージを受けて強制的にログアウトさせられないように、2人でかばっておいて」
「了解です!」
「ワタシがマーリドのプログラムを解析する間、ニコルはマーリドを束縛して。束縛魔法の出力が足りないぶんは、ルラが補って」
 わかった、とニコルさんが言って、シャリンさんを背中にかばう位置に立った。アタシはニコルさんの隣だ。杖を持つニコルさんの右手に、アタシは左手を重ねる。
「BPM、いくつですか?」
「いつもと同じ240で行こう」
「威力、もうちょっと上げられますよ?」
「こういうときは、慣れたリズムがいい。譜面はさほど難しくない。右で動いたら次は左、っていうふうに規則性があるし、16分音符も入ってないから」
「わかりました」
「じゃあ、いくよ」
< 80 / 91 >

この作品をシェア

pagetop