セカンド☆ライフ
葬儀から数日、俺はまだ自室に引きこもって漂っている。
体がないので新陳代謝もなく、腹も減らなければ排泄もしない。

睡眠はとる。
寝ると言うよりも、外部からの情報を遮断する感じだ。
寝なくても問題ないし、眠り続けることもできる。

他人や物質はおろか、自分自身にすら触れられないのだ、何もできないし、する気も起きない。
死んでからの俺は本当に無欲だ。
そして退屈だ。

自室にいると時々家族が入ってくる。
遺品の整理等をしているようだが、家族の涙を見るのは辛い。
俺は元気だよ!ここにいるよ!と伝えたいのだが、どうにもならないことはここ数日の試行錯誤から学んだ。

(退屈だな…外に出てみるか)

外はあいにくの雨だが、雨粒のその全てが俺の体をすり抜けるので濡れはしない。
便利だがなんとも気持ちの悪い光景だ。

(純流さんはどこにいるんだろ…)

目的もなく、空中に寝転がるような体勢になり漂っていると、何かが俺の体をすり抜けた。
腹から人の首が生えている。

『うわぁっ!』

『あ!ごめんなさい!ぼぅっとしてまし…た…あれ?』

『いえいえこちらこそ…お?』

その顔には見覚えがあった。

『水辺君!?』『横峰さん!?』

同時にお互いの名前を呼んだ。

同じ地区にある女子校の制服を着た少女。
横峰 詩乃(ヨコミネ シノ)。
小、中学で同級生だったが、高校進学直後に亡くなったと風の噂に聞いた。

ポニーテールと小学生なみに低い身長がトレードマークの文系眼鏡美少女で、目立たなかったが一部からコアな人気は得ていた。

それほど親しい仲ではなかったが、知っている人間の死というのはショッキングであり、印象に残っていた。

『水辺君もその…死んじゃった…んだね…』

『ハハ…見ての通りです…』

『最近?』

『んと、一週間くらいかな?交通事故で』

『そっか…ご愁傷さまです…』

『あ、いえいえご丁寧にどうも…』
(なんか違和感あるなこのやり取り…)

『でも凄いね、一週間くらいでもう他の人が見えてるんだね』

『あぁ、親切な人にいろいろと教えてもらえたから』

『へぇ~、私は半年くらい見えなかったなぁ』

『そんなに?寂しかったんじゃない?』

『それはもう…』

(死んどいて言うのもなんだけど…純流さんと出会えた俺は運が良かったんだな…)

『そうだ!水辺君【フォロー】しよう!』

『フォロー?』

『えっと…セカンド同士で縁?を結ぶことで…なんだっけ…感覚?の共有?あれ?感覚?意識?どっちだっけ?』

『いや俺に聞かれても…』

『だよね…』

横峰はアタフタしている。

(ハムスターみたいでちょっとかわいい…)
『あ〜えっと、それでそのフォローってのはどうすればいいの?』

『あ、えっとね、まず私のことを強く思い描いてみて』

(強く…裸でもいいのかな?)

目を閉じて横峰の姿を思い浮かべる。
一応服は着せておいてやった。
と言うか見たことないものはイメージのしようもない。

『ん、それから?』

『待ってね、私も思い浮かべるから』

と、体の中に横峰が入り込んでくるような感覚。
悪寒とも快楽ともつかない奇妙な感覚。
しかし嫌な感覚ではない。
横峰の温もりや匂い、柔らかさが伝わるようで心地良い。

『うはっ』

『よし、これでお互いフォローできる』

『んと、なんか変な感じしたけど…これでなんか変わったの?』

『えっと、上手く説明できないんだけど…フォローしてる相手が近くにいると気配を感じたり、強くイメージするとなんとなく会話ができたり…』

『な…なんとなくですか…』

『どう言えばいいのかな…つまり…』
《こういうこと》

頭の中にダイレクトに横峰の声が響いた。

『ぬおっ!?』

『わかってもらえた?』

《あ〜、うん、なんとなく…ね》

横峰がクスりと笑った。
つられて俺も笑った。

セカンドになって、初めて笑った。
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