バレンタイン戦線異常アリ
3.私だけが空回り

歯噛みしながら教室を覗き込む。

窓際には春香が立っていた。
開いたままの扉から覗いているからか、春香は私に気づかない。


窓からの光に照らされた春香の顔は、頬が桜色に染まっていて、どこか熱っぽい表情。
口元を手で抑えながら何度も溜息をつく。

そして春香は目を閉じて、額を窓に押し付けた。
まるで熱を冷まそうとしているような姿に、嫌な予感が止まらない。


私の目に映る春香は、恋をしている女の子。

さっきまで春香と話をしていたのは克司だ。
それはつまり、彼が春香にこんな顔をさせてるってことじゃないの?


「絶対にうまくいかない」と言った恋。

それは、親友である私の想い人だったからだとしたら?


「春香」


声が震えた。
さっきの失恋よりショックかも知れない。


「え? あ、和歌。遅かったね」


全身をビクリと震わせた春香は、私の方に向き直る頃には表情が変わっていた。

熱っぽい眼差しはなりを潜めて、いつもの穏やかな笑顔。


なんで?
いつものあの顔は演技だったの?


親友だと思ってた。
春香の柔らかい笑顔が好きで癒やされてた。

それがウソモノの笑顔だったなんて嫌だよ。

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