バレンタイン戦線異常アリ

「ほら、ブサイク」


意地悪な言葉と一緒に、洋介がハンカチを差し出す。


「一言余計だし」


本当はありがとうって言いたかったのに、そんなこと言われたら素直に言えないじゃないか。
もらったハンカチで涙を拭いて、ついでに鼻もかんでやった。


「おまえっ」


睨みつけてくる洋介をみて、私は笑い出した。

ああ、ようやく笑えたな。

最悪の一日だった。
告白する前から失恋して、親友との仲までぎくしゃくして。


「……取り戻すのが大変だ」

「あ?」

「ううん。なんでもない。……ごめんね、洋介。私、帰るね」

「……一人で大丈夫か?」

「平気」

「じゃあ、俺は部活に行く」


洋介は、鼻水のついたハンカチを奪い返して教室を出ていく。

今日は剣道部がある日か。今から行っても遅刻じゃん。
なんか悪いことしちゃった。

でも、人の優しさってお薬みたいな効果があるんだな。
トゲトゲだった気持ちが、少しだけ楽になった気がする。

< 20 / 26 >

この作品をシェア

pagetop