残業しないで帰りなさい!

痛くて思わず顔をしかめたら、課長も痛そうに顔を歪めた。

課長は痛くないでしょう?
何で一緒になってそんな顔するの?

なんかおかしくて、くすっと笑ったら、痛そうな顔のまま課長が首を傾げた。

「どうしたの?」

「課長まで痛そうな顔するから、おかしくて」

「あはは、ホントだー」

白石さんも課長の顔を覗き込んで笑った。

血で汚れた手をきれいに拭いてもらって、白い包帯で巻いてもらったら、なんか全然大丈夫に思えてきた。

体を起こしたら一瞬クラッとしたけれど、すぐに治ったし。もう頭も痛くない。

うん!もう大丈夫!

「本当にありがとうございました。もう大丈夫です」

「大丈夫なわけないでしょ!」

私が立ち上がろうとしたら、コラッ!と白石さんが拳をあげ、その横で課長は優しい目をした。

「無理しちゃダメだよ。病院に行ってちゃんと診てもらっておいで」

「はあ……」

「手の怪我だけじゃなくて、倒れたのも心配だから、それもちゃんと病院で言うんだよ」

そう言った課長の後ろで、急に沢口さんが立ち上がったから、ビクッとした。

あれ?沢口さん、もしかしてずっとそこにいたの?

「ふうっ!絨毯がえんじ色だから、このくらいきれいにすれば、もう血の跡はわかりませんよね?」

あ、もしかして沢口さん、ずっと絨毯に付いた血の跡を掃除をしてくれてたのかな。あんまり静かだったから、全然気付かなかった。

白石さんが絨毯を見て「おお、全然わからないですよー」と言っている。

私が倒れたせいで、なんかみんなに迷惑をかけちゃったなあ。

「……みなさん、お手数かけてしまって本当にすみませんでした」

改めてペコリと頭を下げた。
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