残業しないで帰りなさい!

瑞穂は私の話を聞いて大騒ぎした。
『もしかして彼、不能なんじゃないの?もしくは筋金入りの超ドへたれ!ちょっと、大丈夫?私だったら無理だわあ』

そうなのかな?
別に私はどっちでも構わないけど。
一緒にいられるだけで楽しくて幸せだから。

そう思っていたのに……。
最近ちょっと困っている。

だって。
寝る前にすっごい大人のキスをしてくるんだもん。

ホントにすごくて、意識が朦朧として涙目になって息も絶え絶えになるようなキス。
こんなキス、なんか変な気持ちになってくる。

なんでこんなキスをするの?こんなキス、眠れなくなっちゃうよ。
私、どうしたらいいの?
わけがわからない。

だから思いきって聞いてみた。

「……どうしてっ?」

「どうしてって?」

「どうしてこんなキス、するの?」

「……好きだから」

翔太くんは黙ってしまった。
んー?なにそれ?変なの!って思っていたら、翔太くんは大きく息を吸った。

「君を抱きたい」

思わず目を見開く。
そうなんじゃないのかなって気はしてたけど、改めてハッキリとそう言われると鼓動が激しくなる。

「でも」

でも?

「君を傷付けたくないんだ」

「?」

どういう意味かさっぱりわからない。

「どうして私が傷付くの?」

「だって香奈ちゃん、初めてでしょ?」

……それはそうだけど。この人はそんなことを気にしてくれていたの?でもそれは、いつかは越えなければいけない壁なんじゃないのかな?

「香奈ちゃんに痛い思いなんてさせたくない」

一瞬、瑞穂が言った筋金入りの超ドへたれって言葉が浮かんだけれど、違うのです!
そうじゃないの!

この人は本当に優しい人なのです。
これはきっと、私を大事にしようと考えてくれた結果なのです。
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