嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 思えばこの頃から少し匂いに敏感になっていたような気がする。

「ほらほら!これでも食べて元気を出しな」

 花ちゃんにフルーツの入ったケーゼクーヘン(チーズケーキ)を勧められたけれど。いつもは気にならない香辛料の香りがなんとなく気になる……。

 そして、花ちゃんに「紅茶はカフェインが入ってるからやめておいた方がいいよ」と言われ、めったに飲まないグレープフルーツジュースを頼んだら、非常に美味しく感じた。

 うーん。なんか、いつもと違う。

 嗅覚とか味覚は妊娠すると変わるのかしら?

 花ちゃんはつわりはほとんどなかったらしいけれど、上の子の時も下の子の時も、妊娠中は炭酸の飲み物が飲みたくて耐え難かったらしい。そういうのは人それぞれ違うのかな。

 その夜、帰ってきた隼人さんに「まだ心拍がわからなかったんです」と不安を打ち明けたら、優しく髪を撫でられて「心配しすぎるのが一番体に良くないよ。大丈夫だから」と包み込まれた。

 はあっと息を吐いて目を閉じる。

 やっぱりこの包まれる感覚が大好き。不安がスルスルほどけるように消えていく。

 そのままの流れで「ぎゅーってして」と甘えてしまった。

 隼人さんは困ったように笑いながら「そんなに強くはできないよ?」とそっと優しく抱き締めてくれた。

 いつもよりもソフトでゆるりとした力加減。

 隼人さん、お腹の子どもがいるから、かなり気を遣ってくれている?私も不安だけれど、隼人さんも不安なのかな?

 お互いに初めてのことだもの。私も不安だけれど、隼人さんだって不安なんですよね?

 そう思ったら力が抜けた。

 一緒に不安を分かち合い、ぴったりくっついて癒される。隼人さんは私の一番の特効薬なのです。

 そしてその1週間後、もう一度婦人科で超音波検査をしてもらったら、今度はしっかり心拍が確認できた。

 嬉しくて、本当に嬉しくて、飛び上がりたいくらい嬉しくて、そっとお腹に手を当てて心の底から安心したのでした。
< 111 / 134 >

この作品をシェア

pagetop