嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 結局、私は花ちゃんにノートを全部コピーしてあげた。なぜなら、花ちゃんがレシピをメモしないのは、ドイツ語がよくわからないせいだとわかったからだ。

 私よりドイツに長く住んでるのに……。

 花ちゃんは常になんとなくのニュアンスで会話を理解しているらしい。料理教室なんて難しい言葉が出てきそうなのに、よく行こうと思ったなって感心してしまう。

「そのうち日本に帰るんだから、完璧にドイツ語マスターしなくてもいいかなって思ってさ。教えてもらった料理も、ちゃんと家で再現できてるし」

 レベッカさんはどちらかと言うと大味で、塩と胡椒で豪快に味付けをすることが多いから、レシピがなくても再現できるかもしれない。それでも、キャラウェイシードとかディルとかの香辛料もよく使うけど、花ちゃん、どうしてるのかな?

「まあ、あんまりわかんなくても何とかなるもんだよ」

「……そうかな?」

「そうだよ!」

 まあ、花ちゃんなら何とかなるのかもしれない。

 花ちゃんの子どもたちはとっくにドイツ語がペラペラで、わからない時は子どもに通訳してもらっているらしい。

「子どもは覚えるのが早いよねー」

 なんて言って笑ってる花ちゃん。

 今もニシンの骨抜きをしながら普通に笑って喋ってるけど、花ちゃんの日本語と、レベッカさんのドイツ語の会話はなんとなく成り立っている。不思議な光景。

「(日本語)骨抜くの、めんどくさいなー」

「(ドイツ語)家族が食べるものなんだから、丁寧に骨を抜くのも愛情なのよ」

「(日本語)そっかー、じゃあちゃんと抜かなきゃ!」

 なぜ!?なぜドイツ語と日本語の会話が成り立っているの?

 どうやらおおらかな(適当な)二人は、ニュアンスで会話が成立するらしい。ある意味羨ましい。
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