嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 ずっと不思議だった。

 どうしてお母さんがお店に子どもの頃の私の写真を隠し持っていたのか。

 意地っ張りだから隠してたのかな、とも思ったけれど、お母さんの性格を考えると違う気がする。隠すくらいなら、きっと捨てる。お父さんの写真を捨ててしまったように、スパッと捨ててしまうと思う。

 お母さん、お父さんに会いたかったの?

 お父さんに私が赤ちゃんだった時の靴下やら写真を見せようと思っていたの?だからお店に置いていたの?

 お父さんは家庭のある人だって聞いていた。その家庭に戻ってしまったって。

 お母さんは酔っぱらって機嫌がいい時、お父さんのことを話すことがあった。

 私の名前を付けてくれたお父さん。雪の日に生まれた若菜の子だから「雪菜」と私に名前を付けた。

 お父さんはお母さんと離れる時、お母さんのことを、抱っこした私ごと一緒に抱き締めて、「必ず戻るから待ってて」と言ったらしい。そして、その後も毎日電話をくれたってお母さんは言ってた。

 でも、私が2歳になった頃、突然パタリと電話がこなくなった。どこにいるのかもわからない。

 お母さんはその後何年間かはお父さんを信じて待っていた。

 でも、きっと寂しかったんだと思う。

 酔っぱらうと私を見て「お前はあの人に全然似てない」と言って泣きながら私を叩くようになった。

 ごめんなさい。お父さんに似てなくて、ごめんなさい。お父さんの代わりになれなくて、ごめんなさい。

 そのうちお母さんは、お父さんと住んでいた家から引っ越した。そして、いろんな男の人と付き合うようになった。次から次と、怖い人ばかり。

 お父さんがどんな人だったのか、私は全然覚えていない。でも、お母さんが付き合ってた男の人たちとはきっと違う感じの人だったんじゃないの?

 お母さん、本当はずっとお父さんのことが好きだったんでしょ?だから、お父さんと似た人とは付き合わなかったんじゃないの?

 本当はずっと、お父さんのこと、待っていたんだよね?名前を変えず、写真を隠して。
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