嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

「ごめん……変なこと言って。俺が悪かった。でも、俺が上書きするから。俺が塗りつぶして忘れさせるから。それに、その動きもちょっとヤバいから、やめて」

 隼人さん、ちゃんと上書きしてくれる?私、忘れたいの。瀬川さんのことなんて、隼人さんに上書きしてほしい。

 過去があるから今がある。それはわかってるんだけど。

 私、だんだん図々しくなってきたみたい。前はもっと繊細で、嫌なことや辛いことはなかなか忘れられなかったのに、最近の私は嫌なことはすぐに忘れられるようになってきた。

 だからね、嫌なことは今すぐ忘れさせてほしい。

 抱き締められたままでそんなに動けなかったけど、もう一度小さくジタジタしてみた。

「だからそれ、やめてって」

 私がふふっと笑ったら、隼人さんは少し身を起して私をみつめた。

「……雪菜、わざとやってる?」

「うん」

「誘ってるの?」

「上書きして欲しいの」

 小さな声で囁いた。そう……、私、ジタジタ動いて誘ったの。隼人さんに上書きしてほしいの。

 だって、瀬川さんに抱かれるのは辛かった。瀬川さんのためだけにある行為のようだった。

 でも、隼人さんは違う。二人で時間を共有しているのを感じる。抱かれる、ということじゃなくて、一緒にしていることだと感じる。

 快楽に罪悪感を感じない幸せ。心を開いて素直に溺れる幸せ。私に感じてもらえる幸せ。

 もっと貪欲に感じたい。隼人さんにももっと私を感じてほしい……。

「……雪菜、可愛い」

 隼人さんはフッと笑ってキスをした。繋がったままのキスは、深くて濃密で吐息が漏れるようなキスで。

 そのまま激しく求められて、揺さぶられて、声も全然我慢できなくて、私はしがみ付くことしかできなくなった。

 私、隼人さんに夢中なの……。隼人さんのことしか考えられない。昔の嫌なことなんて、もうどうでもいいの。
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