コンプレックスさえも愛されて。



「沙耶香温泉好き?」
「え?…あ、はい。好きです」
「そっか。ここ、大浴場の他に、貸切にできる温泉とかもいっぱいあるんだけどさ」

彬さんがパンフレットみたいなのを見ながら話すのに耳を傾けていると、チラッとこっちを見た瞬間に目が合ってしまった。



「貸切、一緒に入る?」
「え?」
「あ、いや…………あー、なんか俺すげぇテンパってるかも…」

彬さんが自分の頭を抱えるようにして、ごめん沙耶香、って呟いた。





「彬さん?」
「あ、いや……すげぇ久しぶりだから温泉行きてぇな、沙耶香とずっと一緒にいてぇな、って思ったんだけどさ。思えば、初デートみたいなもんなのに…いきなり温泉て、ハードルすげぇ高いよな……浮かれてて、全然気付かなかった……なんか…悪かったな沙耶香…」

私から顔を逸らしたままの首筋が少しだけ赤くて、彬さんが戸惑っているのが分かった。
自分だけ、って思っていたのがそうじゃなかったんだ、って気付いて、なんだか私は胸が熱くなった。



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