背徳と僕
背徳と僕

まさに、奔放。

まさに、奔放。

その名に似合わず比較的明るく、行動的な彼女は、初対面であるはずの僕を遠慮なく振り回していた。

「空缶だ。」

彼女はこちらに所々錆びた空缶(おそらくコーラが入っていたであろう)を投げてくる。

「ねぇ、そろそろゴミ拾いやめて帰らな」

「あ、ビール瓶。」

僕が言い終わらぬうちに彼女がそれも投げようとするから、慌ててキャッチしようとすると彼女は口角をつり上げた。

「おどろいたか、少年。」

わっはっは、とでもいいたげに、彼女はデコボコして歩きにくいテトラポットの上を軽やかに移動してきて、僕の手にビール瓶を握らせてきた。

「あげる。」

「いらない。ねぇ、家帰ろうよ。」

「少年、砂浜はどこだ。」

彼女はまたぴょんぴょんとテトラポットを跳ねていく。

「砂浜は明日でもいいでしょ。ねぇ背徳、はやく帰ろうってば。」

背徳、それが彼女の名前だ。

背徳は、今日この町に越して来た僕と同い年の女の子だ。

引っ越しの挨拶に来た背徳を見た僕の母親が、背徳に町を案内してやれと僕を呼びつけ、今僕らはこうして海にいる。


「背徳、日がくれてきたよ。」

背徳は僕を無視してさらにテトラポットの上を進んでいく。

「背徳!!」

「ねぇ、見える?」

背徳が遠くから手を振ってみせる。

こうしているうちに、着々と夕闇は迫ってくる。

僕が困り果てていると、あっはっは、と声がした。

くるりと後ろを振り替えると、底のすり減った靴をべたべたと鳴らしながら自治会長の塩丸さんがやって来る。

「おぅい!!背徳ぅ!!」

塩丸さんがテトラポットで跳ねている背徳に声をかけると、背徳はこちらを振り返りさらにぴょんぴょんと跳び跳ねた。
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