二度目の恋の、始め方

たぶん同じバイトの田中さんだ。まるで利用されたような嫌な気分になって顔をひきつらせていると、雄大が立ち上がる。

「もう遅ぇし心配してんだろ」

「……あ、うん。そう、だね」

「あの親父さんのお前に対する溺愛ぶりはハンパねぇかんな。俺まだ死にたくねぇし、連絡頼んだぞ」

そう言って部屋を出て行こうとする雄大。無意識に、あのっと呼び止めると顔だけこちらに向けた冷たい瞳の雄大に自分が何を言おうとしたのか、次の言葉が出てこない。

「あの、わたし……その……」

「隣の部屋に居るから何かあったら呼べ。心配しなくても俺しかいねぇし、この家」

「え、一人?」

「ああ。中学卒業してマンション借りてもらったんだよ。自立ってやつ。じゃあ連絡してソッコー寝ろよ」

それだけ言って部屋を出て行ってしまった雄大。私は彼に、今更何を伝えたかったんだろう。ベットに沈み、ぼんやり灯るシーリングライトの明かりを見ていると、寝不足のせいか自然と睡魔が襲ってくる。

雄大はお父さんが入院してる事を知らない。付き合ってた頃、よくウチに遊びにきていた雄大は気性の荒い父と喧嘩することも多くて、門限6時にさせられた時はさすがの雄大も土下座で頼み込んでくれたっけ。

そんなお父さんは、口にするほど雄大を嫌ってなかったように思う。今もたまにだけど「あの坊主は元気か」とか「見舞いにもこねぇ薄情な奴だ」とかボヤいている。
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