しょっぱい初恋 -短編集-
食べきれない
「「「………」」」
――バンッ!
「待ちなさい!!」
「殴られると分かってて待つのは、バカか貴女ぐらいですよ」
「んなっ! こんのクソガキ!!」
「ガキじゃありません」
「「「(ハァ…、またかよ)」」」
呆れた目で皆から見られているけど、そんなの関係ない。
この生意気なガキを殴り飛ばさなければ!!
「ハァ…ったく。ゆい、今度は何だ?」
「この生意気なクソガキが私の弁当を不味いって言ったのよ!」
そう、事の始まりは昼休み。
最近金欠気味だったから、節約のために弁当を持つようにしていた。
そして昼休みになり、中庭に出て弁当を広げ、さぁ食べようかというときにだ。
律のやろうがどこからともなく現れて横からヒョイっと玉子焼きを口に入れて……。
『うわ、まず』
とかほざきやがった。
そして今、こいつの顔面に一発決めるために校舎中を追いかけ回しているのだ。
「いや、だって本当に不味かったですし」
「だから他のおかずと味が混ざっちゃったんだっつってんだろ!」
「いやいや、たとえ味が混ざったとはいえ……不味いのには変わりないでしょう」
「俺が代わりに作ってあげましょうか?」とバカにしたように笑った律に…マジでキレた。
「殺す! 絶対殺す!!」
「おい、止めろって!」
「放せ! このくそ生意気なガキには、一発殴って360゜性格が変わるようにしなきゃダメなのよ!」
「バカですか、貴女は。360゜変わったら一周しちゃいますよ。第一、1つしか変わらないのにいつまでもガキ扱いしないでくれませんか。オバサンって呼びますよ?」
「お、おば…!!」
「おい、2人ともいい加減に……」
「「うるさい、ハゲ!!」」
「………(なぜ無関係の俺がこんな仕打ちを……)」
止めてくれるゆうきには悪いけど、これは私と律の問題。
「ちょっとゆうき!」
「な、なんだよ…」
「悪いけど、今日の部活はパス!」
「は?」
こーなったら、律の穴というもの全部から何かが出るくらい私の美味しい美味しい料理を食べさせてあげようではありませんか。
ふふ、ふふふ…
「おーーっほっほっほっほっ………!」
「「「……(あぁ、ついに…)」」」
_____
____
「~♪」
「………」
あの後、律も強制連行し、買い物に行った私達。
今は、隣でジトーッと見てくるこやつを無視して、ぶりの下ごしらえをしている。
「……あの」
「んー?」
「何で3匹なんですか」
「私が1匹にアンタが2匹。アンタ育ちざかりなんだから2匹は余裕でしょ」
「……」
学校とは打って変わって大人しい律。
黙ってたら本当に可愛いのに…。
なんて、ついそう思ってしまった自分に頭を振る。
「どうかしましたか?」と小首を傾げる律に何でもないと、椅子に座らせて。
出来上がった料理をテーブルへと運ぶ。
「ほら、アンタの好物ばかりよ」
「え、なんで知ってるんですか…?」
「……」
しまったぁぁぁ!
とりあえず頭をお盆で叩き、「アハハー何でかなぁ」と誤魔化した。
「ふーん」と興味なさそうに返事をした律に、こっそりと安堵のため息をつく。
いやー、危ない危ない。もう少しでバレる所だった。
こいつ意外と勘が鋭いからなー。
「ほら、さっさと食べろ!」
「なんで命令口調なんですか…。……いただきます」
律義に手を合わせて、ゆっくりと口に食事を運ぶ姿を、胸をドキドキさせながら見る。
だって…
「……なんですか?(汗)」
「いやー、本当に綺麗な顔だなぁと…」
「はぁ?」
「で、どうだった?」
「ん? あぁ……普通に美味しいですよ」
「ほ、ほんと!」
律から思ってもみなかった言葉が出てきて、思考が止まる。
やばい、予想外に嬉しい!
それになにより……。
「わ、笑った…」
あの律が笑ったのだ。
「あのねー、笑っちゃいけないんですか?」
「い、いや…だって」
「……やっと2人になれたんだから、良いじゃないですか」
そう言って、鼻が付くくらいの距離で優しく笑う律は、今まで見たことの無いような大人の表情で。
「苦手な天ぷら出されるかなと思ったんですけど…」
「んっ…」
「俺の好物なんて……可愛い所ありますね、先輩」
そのおかげで、我慢していた律への思いは溢れて止まらなくなってしまった。
たべきれない(了)
限界のない食欲
(「つま先立ち」のちょっぴり前のお話)
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