しょっぱい初恋 -短編集-
一陣の春風





彼の事を思い出すことが今でもある。
その度に、「あぁ、どんなに忘れようと思っても、忘れられないんだなぁ……」って。

新しい恋を見つけようと思っても、全然そんな気になれない。
その期間が長くなればなるほど、もっと辛くなるだろうに。


私はもう一度「恋」というものをすることがあるんだろうか。




「-―ねぇ、晴(はる)。アンタ最近元気ないね」

「へ、そぉ?」

「うん…」




放課後、家の近くのファミレスで明(あかり)と2人。

頼んでいたいちごパフェは、どうやら私がぼんやりと時間を過ごしている間に運ばれていたようで、その存在に気が付いたときには、既に上のソフトクリームが溶けかけていた。

グラスに垂れそうなアイスをスプーンで取ってひと口。うん、甘い。

そして心配そうに眉を潜める明にようやく返事をする。




「何でもないよ…?」

「嘘ばっか」

「……」

「そんなため息ばっかしといてよく言うよ」




あぁ、そう言われてみれば確かに最近ため息ばかりかも…。

「へへ…、何だろうねぇ…」とへらへら笑う私に痺れを切らしたのか、明は私のスプーンを持っている手を掴むと、それでパフェに強引に食らいついた。




「あらま」

「ったふ……まら引きふってるんれしょーが!」

「明ちゃん舌まわって無いけど」

「うるさい、思ったより詰め込みすぎたのよ」




「あー、頭キンキンする」
そう言って頭を軽く叩きながら、何とか痛みに耐えようとする明が可笑しくて堪らない。

そうまでして私を気遣ってくれる友人の想いに応えるべく、私は「うん、そう」と頷いた。




「うん、引きずっちゃってるかも」

「……はぁぁぁぁぁ! 馬鹿だねぇアンタも」

「って言われてもねぇ」

「まぁアンタら割と仲良かったもんねぇ…。でも、流石にそろそろ吹っ切らないと…」

「……」

「辛いのはアンタよ?」

「…分かってる」




わかってる。何もかも。

私の中で結論はとうの昔に出ているんだから。




「分かってる…」

「……」

「あーもぉ、暗くなっちゃったじゃん…。この話はこれでしゅーりょー」

「……」




忘れたくても忘れることが出来ないって、以外と苦しいもんだね。





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