触れない温もり
第4章:変な誘い
「「「おかえりなさいっ、若!!!」」」


ドアをあけた瞬間黒スーツのいかつい男らが頭を下げる。



「おう、ただいま」

その状況に驚きうろたえる俺の隣で、黒桐はそんなことは慣れっこだと言うように男たちを片手であしらう。




「ーっ!?若!そのケガは!」


頭をあげたスキンヘッドの男が黒桐の怪我と小麦粉で真っ白になった制服に気がつく。

そして、俺の存在にも。


「こっ、コイツにやられたんっすか!」


「おいおい落ち着け四方木(よもぎ)。
俺を怪我させた奴がこんなところに自ら入ってくるか?」

殴りかかって来ようとする四方木と呼ばれた男をなだめる。

そうして一息ついてもう一言。


「はあ、俺のダチだから手ぇ出すんじゃねぇぞ」



四方木は、はっと目を見開き

「若のご友人だったんすか!
さーせんしたっ!!!」


90度をこえる角度まで思いっきり頭を下げる。


「い、いや気にしないでください!
送ってきたくらいですし」


「おいおい、何行ってんだよ。俺を助けてくれたじゃねぇか」


わたわたと手を振る俺に黒桐が呆れる。



「そうだ!みんな聞いてくれよ。助けてくれた時、コイツ、小麦粉の袋をチンピラに投げたんだけどよ。そん時、小麦粉で衝撃を与えるだけじゃなくて、目くらましにも使ったんだぜ」



「………」

「?」


分かってたのか……


いかつい男たちは分からないとでも言うように首を傾げる。


「おっ前らアホだなぁ、俺も人の事言えねぇけどな。普通に殴っただけでは小麦粉はまわねぇ。袋に穴あけるかなんかしねぇと……」


「うん……ガラスの破片が落ちてたから半分くらい切って、粉が爆発するようにしたけど……
粉がまえば、目くらましになってとりあえず逃げれると思って」



ふと黒桐の顔を見ると、またあの楽しげな笑みを浮かべ、こちらを指さして興奮したように話し出す。



「な!おもしれぇだろコイツ!
見慣れない結構ハードなチンピラの喧嘩を間近で見て、助けようとした上に、冷静に判断して相手の目をくらませるこの方法を思いついたんだぞ?」


「「「おおおおおおおおー」」」



拍手喝采とはまさにこのことだな。
長文でよくわからなかったが。



いや、あははは……


しどろもどろの返事しかできない。

だって、いかつい男が俺を尊敬の眼差しで見るんだぞ?


この立場、結構困る。



どう切り抜けようと考えていると、男たちの後ろから


「あっれー?若、帰ってたんすか。」


という、軽い声。


その声を発した男は俺を取り囲んでいるいかつい男たちをかき分けて、黒桐のところへ歩いていく。



「おい。」


その歩みを止めたのは、四方木。


「若に対しての態度はそれか?
もっと敬えと言ってねぇか?あぁ?」


「いや、俺はいいぜ。そのままで、気にしねぇから」


「いや、しかし、上下関係を守らねぇやつはーーー」


「って、若、怪我してるじゃないっすか!」


説教されてる中よそ見していたその男は黒桐の怪我を見て大げさに驚く。



「ちょっと待っててください!」



そう言ってまた、奥の部屋へと走っていった。



「はあ…あいつは人の話を全く聞かねぇ」


「いいじゃんいいじゃん、手当してくれんだし」



「えっと……さっきの人は…………?」


「あぁ、あいつは黒桐会専属の医者だ。まあ、闇医者だがな」


「あ、今あんなアホそうなやつが医者で大丈夫か思っただろ」


四方木の説明を聞いた俺の心情を読み取ったように黒桐は楽しそうに笑う。


「んー…まあね」



「やっぱりなぁ。最近四方木が拾ってきたんだが、俺も信用できなかったぜ」


「でも、腕は確かでしょう?」


「あぁ、もうついでに内科の医者も拾ってきてくれよ」


拾うって捨て犬じゃねぇんだから……



「いや、内科の闇医者って怖くねぇすか?」


そっちですか。


「確かに…薬もられると厄介だな」



ヤクザの世界って怖いな、と思っていると先ほどの男が戻ってきた。



「はい!若ー袖めくってくださーい」

「こっ、コイツはまたなめた言い方しやがって……っ!」

「いーじゃねぇか。ほい、痛いからあんま引っ張んなよ」


黒桐が手を出したかと思うと超高速で手当されていく。



「はい!完了です!
ほかもしないとダメなようなので奥に入りますか!」


………確かに今までずっと玄関だった………

俺なんてまだ靴はいて突っ立ってるだけだし


「まあ、ここで脱ぐのはあれだしな」

「よし、若を運べ」

「いやいいって……逆にいてぇから」


…俺、空気かよ


「じゃあ、黒桐を送ってきただけなので帰りますねー」


ドアに手をかけそそくさと帰ろうとすると…



「おい!まだ帰んな!話があるつっただろ!」


「うわぁっ」


思いっきり袖を捕まれ後ろに引っ張られる。


本当に怪我してんのかコイツは………
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