お兄ちゃんの罠に嵌まりまして。
ボーッとしてると、女子たちの不可能に近い願望を告げる声が聞こえて来た。

鼻で笑いながら、スクールバックを手にする。



「帰るのか?」



「何か問題でも?」



「真っ直ぐ帰るのか?」



…わざわざ言わなきゃいけないの?

私は「さぁ?」と答えながら、立ち上がると、慎君と戸倉とのデート希望の女子たちの視線が飛んで来た。



「あのさぁ、岡本さん?」



「何」



「もうすぐで卒業でしょ?」



「そうだね」



「友達になってあげるから、山嵜先生に頼んでくれない?」



「ナギサ、3年間ずっと先生ラブだからさ!頼んであげてよ!」



…あり得ない。



「くだらない友達はいらない。デートしたければ、自分で頼むべきじゃない?」



私は別に、“行かないで”とは言わないし。

かといって、慎君もほいほい行くような人でもないけど。



「はぁ?何様のつもり?ナギサが友達になるって言ってあげてるのに!戸倉とちょっと仲が良いからって、上から言ってんじゃねぇよ!」



「……キレても恐くないけど」



しかも、上からとか言ってなくない? 

ただ、正しい事を言っただけじゃん。

だいたい、彼女である私から、慎君に“してあげて?”なんて、言えないでしょ。

それに、気持ちも伝わらない筈。

応える事が出来なくても、好きと言われて迷惑に思う人が居るの?

普通は嬉しいものでしょ?
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