麗雪神話~麗雪の夜の出会い~

きょろきょろとあたりを観察しながら二人が神殿跡へと足を踏み入れた時だった。

どこからか突然、竪琴の音色が聞こえてきた。

それも、そう遠くではない。

どこかで体験したようなシチュエーションに、二人は目を見合わせた。

二人が駆け足で音のした方に向かうと、そこには案の定、見知った人影があった。

崩れた柱に寄りかかるようにして座り込み、竪琴をかきならす青年の姿。

「あなた…! あの時の吟遊詩人…! なんでこんなところにいるのよ!!」

あまりにも怪しすぎて、セレイアは問答無用で彼の胸ぐらをつかみあげた。

「おいおい、乱暴はよしてくれ美しい御嬢さん、それに、雪のお兄さんも、…お久しぶり」

「久しぶり」

「ちょっとディセル、のんきにあいさつしてる場合じゃないでしょ! あんた、何者なの! 正体を吐きなさい!」

セレイアがかみつく。

しかし吟遊詩人は余裕の笑みを崩さなかった。やんわりとした動きでセレイアの手を振りほどき、ぱっぱっと服の乱れを直す。

「そう怒りなさんな。
今日は俺があんたたちを毒の霧まで案内してやるよ。
一応言っておくが、毒の霧は俺には効かない。もちろん、雪のお兄さんにもな」

「どういうことよ!? どうしてあなたがそんなこと知っているのよ!」

セレイアの質問を、吟遊詩人はふふっと魅惑的な笑みを浮かべて流した。

「さて行こうか。
退屈していたんだ。ちょうどいい」

吟遊詩人は優雅に立ち上がり、そのまま歩き出した。当然二人がついてくると思っているらしい。
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