麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
「はい、フリムヴェーラ!」

親友に書類を差し出すセレイアの得意げな笑顔に、ハルキュオネの雷が落ちた。

「セレイア!! あなたは何度言ったらわかるのですか! 姫巫女にふさわしい立ち居振る舞いをせよと、あなたが五歳の頃から口をすっぱくして言って来たのが聞こえていなかったとでも言うのですか!? ここは聖なる神殿、ほかの巫女や神官たちの目もあるというのに木登りなど―」

「あははぁ、大巫女様、見ましたでしょう? フリムの運んでいた大切な書類が風に飛ばされたので、仕方なしにですね…」

「何が仕方なしです! あんなに楽しそうにしておいて!」

「あははぁ…」

「間延びした笑いはおやめなさい!」

「す、すみませんでした」

そのやりとりが楽しくて、ディセルはこらえきれずにくすくすと笑いをこぼした。

「賑やかで、いいな」

するとセレイア、フリム、ハルキュオネの三人がそろって頬を染め、ぽうっとなってディセルを見た。

ディセルはまったく意識していないが、彼の笑顔は女性に対して非常に強力な爆弾なのだ。セレイアはともかく、既婚者の二人をもってしてもこのようにぽうっとさせてしまうことからしても、その威力のほどは知れようというものだった。
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