麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
本来であれば半刻から一刻かけて、姫巫女たるセレイアがここで毎朝神の予言を聞く。それに基づき、神殿や王家が動くこともある。重要な役目だ。

しかし15歳のある日突然、彼女の予言を聞く能力は消失してしまった。

それゆえセレイアは、ハルキュオネの指示で、毎朝ありもしない予言を人々に伝えねばならなかった。姫巫女の職を辞そうとしたセレイアに、嘘でも予言を伝え続けることが一番国民のためになる方法だと諭したのはハルキュオネだ。大巫女にそう言われれば、従うよりほかない。

その判断に、セレイアはいまだ納得できていない。能力を失った自分は早々に姫巫女を辞するべきであったと、今でも思っている。

―国民にいたずらに不安を与えないために。確かに民の不安は暴動にまで発展することがある、とても危険なものだ。ハルキュオネの言い分はわかるが、嘘の予言を伝え続けることは、信心深いセレイアにとって地獄のように辛いことであった。

跪き、祈りの形に手を組んで、今日もセレイアは心研ぎ澄ます。

祈るのはただひとつ。

“スノーティアス様。

どうかトリステアの民が幸福に包まれますように。

あなたさまの言葉を騙る私にどのような罰を下されようとも構いません。

けれど、民だけは…民だけは愛し、守ってくださいますように“

その悲痛な祈りは、果たして神のもとへと届いているのであろうか。

それさえもわからぬまま、彼女はぽっかりとした陽だまりの中で、無心に祈り続けるのだった。
< 21 / 149 >

この作品をシェア

pagetop